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東京地方裁判所 昭和41年(行ウ)14号 判決

原告 大同信号株式会社

右代表者代表取締役 小森修二

右訴訟代理人弁護士 水谷昭

被告 東京都知事 美濃部亮吉

右指定代理人 佐々木秀雄

〈ほか一名〉

主文

被告が原告に対し昭和三六年一一月二七日付でなした差引き更正により納付すべき原告の法人事業税金二四三、〇七〇円、都民税法人税割金一〇九、三八〇円なる旨の各更正処分および法人事業税過少申告加算金金一二、一五〇円の決定処分は、いずれもこれを取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立て

原告

主文同旨の判決を求める。

被告

原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求める。

第二原告の請求の原因

一  原告は、昭和三六年当時、本店を東京都中央区銀座西一丁目一番地に置き、福島県石川郡浅川町に浅川工場を有していたもので、地方税法により都道府県民税等および事業税につき関係都道府県に分割して申告、納付する分割法人であった。なお、原告は、昭和三八年六月一五日、右本店を東京都大田区仲池上二丁目二〇番二号に移転した。

二  被告は、昭和三六年一一月二七日付で、原告に対し、原告の昭和三〇年四月二一日から昭和三一年四月二〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)について、つぎの各処分(以下「本件各処分」という。)をし、原告は、昭和三六年一一月二七日ごろ右処分の通知を受けた。

1  事業税

総所得金額           一二、二四八、三〇〇円

うち東京都分所得金額      五、〇〇〇、八〇〇〇円

事業税額               五九六、〇一〇円

すでに納付の確定した当期分の事業税額 三五二、九四〇円

差引更正により納付すべき事業税額   二四三、〇七〇円

過少申告加算金額            一二、一五〇円

2  都民税

課税標準となる法人税額の総額  四、八七四、三〇〇円

うち東京都分          一、九九〇、一〇〇円

右都民税法人税割額         二六八、六六〇円

すでに納付の確定した当期分の税額  一五九、二八〇円

差引更正によって納付すべき都民税額 一〇九、三八〇円

三  原告は、本件各処分に不服であったので、昭和三六年一二月一五日、被告に対し、異議の申立てをしたが、被告は、昭和四〇年一一月一八日付で、原告の異議申立てを棄却し、そのころ原告に右異議申立棄却決定を通知した。

四  しかしながら、本件事業年度に係る事業税の申告期限は、昭和三一年六月二〇日であるところ、本件事業年度についての地方税の徴収権は、地方税法(特に注記された場合を除き、本件処分につき適用されるべき同法をいう。以下同じ。)一四条の規定によって、その申告期限である昭和三一年六月二〇日から五年を経過した昭和三六年六月二〇日をもって時効によって消滅したものである。それゆえ、右徴収権が時効により消滅した後である同年一一月二七日付でなされた本件各処分は違法である。

五  よって、本件各処分の取消しを求める。

第三被告の答弁

(認否)

一  原告の請求の原因第一項、同第二項、同第三項の各事実は認める。

二  同第四項および第五項の各主張を争う。

(主張)

一  本件各処分の経緯について

原告は、昭和三一年六月七日、本件事業年度の事業税および都民税について確定申告をした(右確定申告による法人事業税額は三一一、六八〇円、都民税法人税割は一四〇、七一〇円、同均等割は四五〇円)が、被告は、その後、原告に対し、国税たる法人税の更正にともない、昭和三二年九月五日付および昭和三三年四月一〇日付でそれぞれ更正をした(前者の更正による法人事業税増差税額は一七、四五〇円、都民税法人税割増差税額は七、八五〇円、後者の更正による法人事業税増差税額は二三、八一〇円、同税過少申告加算金額は一、一九〇円、都民税法人税割増差税額一〇、七二〇円)。ところで、原告は、昭和三六年六月八日、国税たる法人税について京橋税務署長に修正申告をしたが、事業税および都民税についても修正申告をすべきにかかわらず、右修正申告をしなかったので、被告は、国税たる法人税についての原告の右修正申告に基づき、本件各処分をなしたのである。

二  本件各処分の適法性について

1 原告は本件事業年度に係る事業税および都民税についての消滅時効の起算日を、右各税の決定納期限たる昭和三一年六月二〇日であると主張するが、右主張は失当であって、本件事業年度に係る事業税および都民税についての徴収権の消滅時効の起算日は、原告が京橋税務署長に法人税の修正申告書を提出した昭和三六年六月八日の翌日から起算すべきものである。

(一) そもそも、原告のような所得を課税標準とする法人の事業税の更正は、事業税の課税標準である所得が、法人税の課税標準とされた所得を基準として算定した事業税の課税標準たる所得と異なっている場合に限りなしうるものである。すなわち、法人税につき、国の税務官署によって更正もしくは決定が行なわれるか、または納税義務者が税務官署に申告もしくは修正申告をなしてはじめて事業税につき更正しうるにすぎず(地方税法七二条の三九)、それ以前には事業税の更生はなしえないのである。したがって、本件のように、原告が法人税について税務官署に修正申告をし、事業税について修正申告をしない場合の事業税の更正は、原告が税務官署に修正申告書を提出した昭和三六年六月八日以後に権限を行使しうるものであるから、右更正する権利すなわち本件事業年度に係る事業税の徴収権の消滅時効の起算日は、右修正申告書提出の日である昭和三六年六月八日の翌日であるというべきである。このことは、地方税法は昭和三八年法律第八〇号により改正されて地方税の更正、決定等の期間制限の規定が新設され、原則としては法定納期限の翌日から起算して三年を経過した日以後においてはすることができないとしながらも、事業税および都民税のように国税に準拠して、更正、決定が行なわれるものについては、所得税または法人税について更正、決定があった日または申告もしくは修正申告のあった日の翌日から起算して二年間は更正、決定等ができるものとされた(同法による改正後の地方税法第一七条の五、一七条の六第二項)ことに徴しても明らかである。

(二) 都民税法人税割は法人税額を課税標準とするものであり、右事業税と同じく、法人税の更正もしくは決定が行なわれるか、または納税義務者が申告もしくは修正申告をなすまでは、その更正をすることができない。したがって、右更正する権利すなわち都民税法人税割の徴収権の消滅時効の起算日も、原告が前記修正申告書を税務官署に提出した日の翌日である。

2 そうだとすれば、右徴収権消滅前である昭和三六年一一月二七日付でなされ、そのころ原告に通知された本件各処分は適法であって、原告の主張するような違法はない。

なお、事業税の過少申告加算金は、事業税の不足税額に対して、地方税法七二条の四六の規定によって決定されたものであるから、以上のように本件事業年度の事業税の更正が適法になされている限り、過少申告加算金の決定もまた適法であることはいうまでもない。

第四被告主張に対する原告の反論

一  本件各処分の経緯についての被告主張の事実を認める。

二  被告は、法人事業税および都民税法人税割の更正は国の税務官署によって更正もしくは決定が行なわれるか、または納税義務者が税務官署に申告もしくは修正申告をなしてはじめてできると主張するが、しかし、地方税法七二条の三九第二項の規定によれば、申告書を提出しない場合には事業税額を決定しうるのであり、都民税法人税割についても同様である(同法五五条二項、三二一条の一一第二項)から、被告の右主張は失当である。

また、国税通則法(昭和三七年法律第六六号)七〇条一項は、国税につき更正の期間を原則として三年とし、特別の場合にはこれを五年とし、地方税法もまた、昭和三八年法律第八〇号による改正により、更正の期間を原則として三年とし、ただ特別の場合に若干の例外を設けることになった(右改正後の地方税法一七条の五、一七条の六)が、しかし本件各処分については地方税法一四条および会計法三〇条の規定によるほかなかったものであるから、右被告主張のように解することはできない。

さらに、被告主張のように解するときは、法定納期限から一〇年間更正をなしうることとなるが、かような論理は租税債権を可及的速かに確定すべきものとする法の建前と矛盾するし、また、すでに国税について更正期間を徒過した場合には更正がなされないのに、その後修正申告をした者の地方税については、右修正申告の日の翌日から五年間なお更正がなされることとなって均衡を著るしく失し、不当である。

第五証拠関係≪省略≫

理由

一  請求の原因第一ないし第三項の各事実および本件各処分にいたる経緯が被告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  ところで、本件各処分に適用さるべき地方税法(昭和三四年法律第一四九号による改正前のもの)一四条によれば、地方団体の徴収金の徴収を目的とする地方団体の権利は、五年間行わない場合においては、時効により消滅する旨定められているところ、原告は、本件事業年度の事業税および都民税の消滅時効の起算日は右規定により、右各税の法定申告期限の翌日であると主張し、被告は、法人に対する事業税および都民税は法人税の課税標準である所得金額および税額につき申告、修正申告または更正、決定があった場合にはじめて更正をなしうるものであるから、本件事業年度の事業税および都民税の消滅時効の起算日は地方団体が権利を行使しうべき日である法人税について申告・修正申告または更正、決定があった日の翌日である旨主張するので、この点について検討する。

法人事業税および都民税法人税割は、地方税法七二条の二四ないし七二条の三三および同法五三条の各規定により、法人が申告して納付するいわゆる申告納税制度を採用しておりその更正および決定は、同法七二条の三九、同法五五条の各規定により申告、修正申告した所得の金額等が法人税について申告、修正申告した所得の金額等を基礎として算定した事業税等の課税標準である所得等の金額と異なる場合または法人税について更正もしくは決定があったのに事業税等について申告、修正申告がなかった場合等にすることができるものとされているので法人事業税および都民税法人税割についての更正は、法人税について申告または更正等がなければなしえないわけであるが、しかし、法人事業税および都民税法人税割の徴収の確保については、地方税法七二条の四〇(税務官署に対する法人税の更正または決定の請求)、同法六三条(税務官署に対する関係書類の閲覧、記録する権利)および同法七二条の七(事業税に係る徴税吏員の質問検査権)同法二六条(法人の道府県民税にかかる徴税吏員の質問検査権)の各規定が設けられているのであって、地方団体として課税権行使の途がないとはいえず、したがって地方税法七二条の三九、同法五五条の各規定が、事業税および都民税法人税割についての更正は、法人税についての申告または更正等がなければなしえないものとしているのは、事業税、都民税法人税割を法人税等の附加税としての性質をもつものとして定めたのではなく、もっぱら納税者の便宜と徴税費の節減を図ることを目的とした規定であると解するのが相当である。そして、昭和三八年法律第八〇号による改正前の地方税法においては更正、決定等の権限の行使についても同法一四条にいう徴収権に含めて解釈すべきところ、一般的にいって、いわゆる抽象的租税債権としての課税権の消滅時効は課税権者がその権利(更正、決定の権限)を行使しうべき日から進行するものであるが、地方税法は法人事業税および都民税法人税割についていわゆる申告納税制度をとっていること前記のとおりであるから、右の各税について課税権者が課税権を行使しうべき日は、法定申告期限の翌日であると解すべく、したがって法人事業税および都民税法人税割についての抽象的租税債権は、右各税の法定申告期限の翌日から五年を経過したことにより消滅するものというほかない。そうだとすると、本件の場合、本件各処分のうち法人事業税および都民税法人税割に関する更正が右各税の法定申告期限の翌日から五年を経過した後になされたものであることは当事者に争いがないので、右更正は違法たるを免れず、したがってまた右法人事業税の更正が適正な権限の行使であることを前提とする前示加算金の決定も違法であるといわなければならない。

被告は、昭和三八年法律第八〇号による改正後の地方税法一七条の五、一七条の六第二項を引用して法人事業税および都民税法人税割についての消滅時効の起算日は法人税についての申告、修正申告または更正、決定があった日の翌日と解すべき旨主張するが、右昭和三八年法律第八〇号附則第六条の規定および同法による更正等の期間制限の規定の制定の経緯等に照し、右改正後の地方税法一七条の五、一七条の六第二項の規定は本件各処分について適用または類推適用の余地がないものというべきである。

三  以上の次第で、本件各処分の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉本良吉 裁判官宮本増、裁判官村上敬一はいずれも転補のため署名捺印をすることができない。裁判長裁判官 杉本良吉)

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